味噌としょうゆはとても近い食材(調味料)で使う材料に大きな違いはなく、入れる麹の違いと塩・塩水で仕込むかの違いと、液体か半固体なのかの違いくらいです。
味噌について
味噌の起源は、中国から伝わってきたという説と、味噌の原型となったものが弥生時代から作られていた日本独自説の2つあるようです。
奈良時代「未醤」(みしょう)大豆の粒が残っている醤といわれ、主要な蛋白源であり、特に江戸時代中期以前は「おかず」的な扱いでした。現在でも「鉄火味噌」・「ねぎみそ」・「ピーナッツみそ(みそピー)」などおかず、常備食として食べられていますが、調味料としての扱いが主流となりました。味噌は大豆発酵食品の中でも形状や分解度が中途半端な状態ですが、味噌の用途の幅広さや人の健康に効果がある機能性などから、食生活の中に積極的に取り入れていきたい食品のひとつです。
味噌の分類と特徴
主な原料は大豆で、これに麹や塩を混ぜ合わせ、
発酵させることによって大豆のタンパク質が消化しやすく分解されますが、材料、気候風土、環境などさまざまな条件によって違ってきます。
麹による分類
麹とは穀物に麹菌を培養し繁殖させたもので、味噌をはじめ、酒、醤油など発酵食品の製造において大事な役割を担っています。
この麹の原料から味噌は、米味噌、麦味噌、豆味噌の3種類と、これらを混合した調合味噌に分けることができます。
味による分類
甘口、辛口というように、味噌は味によっても分けられます。
辛さ加減は食塩の量にもよりますが、もう1つの決め手は麹歩合です。
麹歩合とは原料の大豆に対する麹の比率のこと。塩分が一定なら、麹歩合が高いほうが甘口になり、大豆が増えると旨味が増すようです。
色による分類
色の濃淡の違いは、発酵熟成中に原料である大豆などのアミノ酸が糖と反応して褐色に変化することです。商品になってからも熟成が進むので、時間がたつと色が濃くなっていきます。
分類表
原料による
分類 |
色や味に
よる分類 |
麹歩合
範囲(%)
(一般例) |
塩分(%)
範囲
(一般例) |
産地 |
米味噌 |
甘味噌 |
白 |
15~30(20) |
5~7(5.5) |
近畿各府県と
岡山、広島、山口、
香川 |
赤 |
12~20 (15) |
5~7 (5.5) |
東京 |
甘口味噌 |
淡色 |
8~15 (12) |
7~12 (7.0) |
静岡、九州地方 |
赤 |
10~15 (14) |
11~13 (12.0) |
徳島、その他 |
辛口味噌 |
淡色 |
5~10 (6) |
11~13 (12.0) |
関東甲信越、北陸
その他全国的に分布 |
赤 |
5~10 (6) |
11~13 (12.5) |
関東甲信越、東北、北海道、
その他ほぼ全国各地 |
麦味噌 |
甘口味噌 |
15~25 (17) |
9~11 (10.5) |
九州、四国、中国地方 |
辛口味噌 |
5~10 (10) |
11~13 (12.0) |
九州、四国、中国、
関東地方 |
豆味噌 |
|
(全量) |
10~12 (11.0) |
中京地方
(愛知、三重、岐阜) |
栄養
味噌の主原料である大豆は、良質のたんぱく質を豊富に含む食品で、“畑の肉”と言われ、
炭水化物、脂質、灰分、ビタミン、カリウム、マグネシウム、繊維質など、たくさんの栄養素が含まれています。
また、大豆は発酵によって、タンパク質がアミノ酸まで分解する途中の中間成分であるペプチドが生成されます。
ペプチドは複数のアミノ酸が数個つながった状態のもので、短時間で効率よく摂取することができ、体内で合成できない必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。大豆ペプチドの働きには「脳」と「筋肉」の疲労回復作用や、免疫力のアップ、肝機能向上による美肌作りなどにも効果があるといわれています。
上手な減塩方法
食塩摂取量の目安とされる塩分量は男性8g未満/女性7g未満です。味噌汁お椀1杯の塩分は約1.4 グラムで、一品の料理の食塩量としては、実は少ない方なのです。
カリウムを多く含んだほうれん草、春菊、いも類などが、塩分の体内吸収を防いでくれ、
また、食物繊維の多いわかめ、ごぼう、こんにゃくなども、同じように塩分を体外に排出する働きがあります。
決して多くはない味噌汁の塩分ですが、旨味と具を工夫し、具沢山にすることでより塩分控えめで美味しい味噌汁を楽しみましょう。
調理効果
・使いやすさ
味噌は、固体と液体の中間であるペースト状で、この形状が他の調味料や食品素材との相性をさらに良くしています。醤油や牛乳などの液体や、油とも混じりあい、料理の幅を広げてくれる強い味方となってくれるのです。固体に対しても、液体のようにたれないので、とても使いやすい素材です。
・味つけ コクとまろやかな味わい
・香りづけ
・消臭効果
・保存効果
しょうゆについて
しょうゆは日本で発達した独特の調味料ですが、
もとは中国の「醤(ひしお)」で、肉・魚・穀物から醤を作っていました。日本では製塩が始まった弥生時代の頃からすでに醤がつくられていて、鎌倉時代にしょうゆの元になる「溜(たまり)」ができ、室町時代に「しょうゆ」が作られるようになったようです。江戸時代には食生活も豊かになりしょうゆ作りもさかんになり現在では世界で利用されるようになりました。
しょうゆの分類と特徴
種類による分類
-
こいくち
国内生産量のうちおよそ8割を占めます。最も一般的なしょうゆで、塩味のほかに、深いうま味、まろやかな甘味、さわやかな酸味、味をひきしめる苦味を合わせ持っています。調理用、卓上用のどちらにも幅広く使える万能調味料です。
うすくち
関西で生まれた色の淡いしょうゆで、国内生産量のうち1割強を占めています。発酵と熟成をゆるやかにさせるため、食塩をこいくちより約1割多く使用しています。素材の持ち味を生かすために、色や香りを抑えたしょうゆです。炊きあわせやふくめ煮など、素材の色や風味を生かして仕上げる調理に使われます。
しろ
愛知県碧南市で生まれ、うすくちよりもさらに淡い琥珀色のしょうゆです。味は淡泊ながら甘味が強く、独特の香りがあります。色の薄さと香りを生かした吸い物や、茶わん蒸しなどの料理のほか、せんべい、漬物などにも使用されます。
たまり
主に中部地方で作られるしょうゆで、とろみと濃厚な旨味、独特な香りが特徴です。古くから「刺身たまり」と呼ばれるように、寿司、刺身などの卓上用に使われるほか、加熱するときれいな赤身が出るため、照り焼きなどの調理用や、佃煮、せんべいなどの加工用にも使われます。
さいしこみ
山口県を中心に山陰から九州地方にかけての特産しょうゆです。他のしょうゆは麹を食塩水で仕込むのに対ししょうゆで仕込むため、「さいしこみ」と呼ばれています。色、味、香りともに濃厚で、別名「甘露しょうゆ」とも言われ、刺身、寿司、冷奴など、おもに卓上でのつけ・かけ用に使われています。
製法による分類
JAS(日本農林規格)では製造方法によってもしょうゆを本醸造・混合醸造・混合の3つに分類しています。現在では8割が本醸造方式です。
本醸造方式
原料となる大豆と小麦を、麹菌や酵母など微生物の力によって、 長期にわたり発酵・熟成させたものです。
タンパク質を分解して種々のアミノ酸に変える工程を、すべて麹菌がつくる酵素の働きでおこなっています。本醸造でつくられたしょうゆは色や味、香りすべてにおいてバランスのとれたよいしょうゆといえます。
混合醸造方式
混合醸造は、本醸造の諸味(もろみ)にアミノ酸液(または酵素分解調味液、または発酵分解調味液)を加え、短期間で熟成させる方式です。
混合方式
協業工場※でつくられた生揚げ(きあげ)しょうゆに、アミノ酸液(または酵素分解調味液、または発酵分解調味液)を直接混ぜ合わせただけのものが混合方式です。
※1963年に制定された「中小企業近代化促進法」に基づき各都道府県に協業組合がつくられ、主に仕込から圧搾までの工程の集約がおこなわれました。
等級による分類
「しょうゆ品質表示基準」によって「特級」「上級」「標準」に区別されています。これらの等級は「うま味」の指標といわれている「窒素分」 の含量や色度(色の濃淡)などで決まります。
しょうゆのうま味成分であるグルタミン酸をはじめ多くのアミノ酸類は窒素の化合物です。窒素分の含有量が多いほどうま味成分の多いしょうゆです。
また、特級より窒素分が10%以上多いしょうゆ(こいくちでは窒素分1.65%以上のもの)には「特選」という表示ができます。さらに、こいくち・たまり・さいしこみしょうゆでは、特級のなかで窒素分が特級規格より20%以上高いものに関しては「超特選」という表示が許されます。
その他にも、特級を意味する「特醸」「優秀」、上級を意味する「上選」「優良」などの用語の使用法が、「しょうゆ品質表示基準」のなかできちんと定められています。
味わい
しょうゆの独特の美味しさは、「旨味」「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」の5つの味のバランスによって作られています。それは、大豆と小麦に含まれる成分が、醸造期間中にさまざまな味や香りの成分に生まれ変わり、それらがそれぞれ作用しあって誕生したもので、5つの調和のとれた味わいは、5つの味の「おいしさの賜物」です。
旨味
しょうゆの旨味は、大豆と小麦に含まれるたんぱく質が、麹菌の酵素で分解され、約20種類のアミノ酸に変化して生まれます。中でもグルタミン酸は、しょうゆの旨味の主役です。
塩味
しょうゆの塩分は、こいくちしょうゆで16~17%。海水の約5~6倍にもあたります。それほど塩辛く感じないのは、アミノ酸や乳酸などの成分が塩味をやわらげ、深みのある味わいを作りだしているからです。
甘味
しょうゆの甘味は、小麦のでんぷんが醸造中にブドウ糖に変化して生まれます。全体の味をやわらかくし、丸みをもたせる働きがあります。口に含むと、舌の先にこの甘味をほんのり感じます。
酸味
しょうゆの酸味は、乳酸菌の働きによってブドウ糖が変化して生まれます。こうして造られた有機酸類は、塩味をやわらげ、味をひきしめる働きをしています。
苦味
苦味成分もしょうゆの中には数種類含まれています。苦味を直接感じることはありませんが、「コク」を与えるかくし味的存在として、しょうゆの味をすっきりとひきしめています。
香り
しょうゆの香りは、麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物によって生まれます。本醸造しょうゆに含まれる香りの成分は、現在発見されているものだけでも300種類以上。これらは、特定の香りが目立ちすぎることなく、全体に調和してしょうゆの独特な香りをつくりだしています。この香りは、魚介類や肉類の生臭さを消すスパイスの働きを持ち、加熱すると香ばしさを生み出します。
香りはしょうゆ醸造の過程で働く微生物や、各種成分の結合によって醸し出されるため、香りの評価はそのまま、微生物による発酵は適正であったか、製麹(せいきく:しょうゆ麹づくりのことです)・仕込みの管理は適切であったかという、醸造の良否を判断する目安にもなります。
色
しょうゆの色というと、一般に黒っぽいイメージがあると思います。 新鮮なこいくちしょうゆの場合は、むしろ鮮やかな赤色に近い色です。
多くの専門家はしょうゆの色を、「赤褐色」と表現するのを好みますが、褐色と呼んでしまったら、茶色やこげ茶色のイメージが強調されてしまいますよね。しかし、実際にガラス製のシャーレ(皿)にしょうゆを入れ、底から光を当ててみると、しょうゆの色は一般的な印象以上に赤い色をしています。
調理効果
消臭効果
しょうゆをつけて刺身を食べるのは、味だけでなく生臭みを消す大きな働きがあるからです。日本料理の下ごしらえにある「しょうゆ洗い」は、この効果を利用して、魚や肉の臭みを消しているのです。
加熱効果
蒲焼きや焼き鳥などの食欲をそそる香りは、しょうゆの中のアミノ酸と砂糖やみりんなどの糖分が加熱によりアミノカルボニル反応を起こし、メラノイジンという芳香物質ができるためです。アミノカルボニル反応は、美しい照りを出す働きもします。しょうゆの色と香りを生かした照り焼きなどは、この反応を利用したものです。
静菌効果
しょうゆには、適度な塩分やアルコール、有機酸などが含まれているため、大腸菌などの増殖を止める効果があります。しょうゆ漬や佃煮などは、この効果を利用して、日持ちをよくしています。
対比効果
甘い煮豆の仕上げに少量のしょうゆを加えると甘味がいっそう引き立ちます。このように、一方の味が強く、他方の味がごくわずかな場合、主体の味がより強く感じられるのが対比効果。
抑制効果
浸かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものにしょうゆをたらすと、塩辛さが抑えられることがあります。これはしょうゆの中に含まれる有機酸類に、塩味をやわらげる力があるためです。このように、混ぜたときに一方あるいは両方の味が弱められることを抑制効果といいます。
相乗効果
しょうゆの中のグルタミン酸と、かつお節の中のイノシン酸が働きあうと、深い旨味がつくりだされます。混ぜ合わせることにより、両方の味がともに非常に強められることを味の相乗効果と呼びます。そばつゆや天つゆなどが、このよい例です。